Q;リスキリングによるDXを推進せよという指示がありましたが、上司の指示は具体性がなく、どう取り組んだら良いでしょうか?
A;経営者や上司から具体的なDX推進分野が明示され、事業内容・人員配置・担当者のスキルセットと要員目標数・予算がはっきりしているのであれば、やりやすいですが、なんとなくDX推進せよとかAI技術者をとにかく増やせとか、ブームに踊らされた経営者の指示というのがやっかいですね。若い社員に、「これからの時代、若い世代の新しい目線で、自由にやって良いぞ」という若者信仰とイノベーション責任放棄の経営者も少なくありません。
戦略性・具体性のない指示は、指示を出している上司もICT化との違いも判らず、ICT化によるコストカットのイメージしかないので、従来のICT化検討で良いのではないかと思います。
ICT化にせよ、DXにせよ、これらを推進することが、社内にどういう「働かせ方」環境をもたらすのかもイメージしておく必要があります。DX推進は、一握りの過酷な労働を行う高度技術者と多くの単純労働を行う社員又は派遣社員の集合体へと二極化を招くという専門家の分析が多々あります。*1)
DX推進が、社員をモーレツ社畜社員と非正規ワーカーを主体とする単純労働者に分けるために行われるのであれば、これが本当に会社のサステナビリティを保証するものなのか、管理者であるあなたはよく考える必要があると思います。このような会社で社員は長期にわたって頑張りたいと思うでしょうか?
DX推進は、コストカットのためではなく、シェア拡大または新規事業拡大のために行われるべきです。社員の新たな役割の創出とスキルアップ、やりがいの醸成を伴ったものにしていきたいですし、そしてこれを推進するのが優秀なリーダーの姿ではないかと考えます。
経済再建政策の中で、よく賃金アップの文脈でリスキリングが語られることがありますが、これはこれで課題解決となるのか疑問ですが、これがさらに会社の中で語られる場合、リストラ(大量解雇)と非正規社員への置き換えという過去に経験した、短期的視野の経営を想起させます。この結果、「失われた30年」=コストカット経済へと進み、企業の競争力も低下してきました。
近年では、「心理的安全性」の中でイノベーションが生まれるという論調が注目されてきています。イノベーションを生み出すという雰囲気の中で、部下の知恵を引き出し、DXを推進するというチーム作りができれば素晴らしいと思います。リストラ前提または想像できるようなDX推進は、社員に「心理的安全性」は乏しいでしょう。
あなたの役割は、株主だけでなく、できれば全ての会社に関わるステークホルダーの意向を踏まえ、会社の競争力を向上させるイノベーションのテーマは何かをまず見つけることです。
*1) 代表的な専門家の意見
①独立行政法人 経済産業研究所 岩本晃一氏 RIETI - 岩本 晃一のRIETIでの活動
②桜美林大学教授 藤田実氏 雑誌「経済」等各種論文
(阿)