企業社会 私たちが考えるもうひとつの視点

新しい産業社会を展望するビジネスパースンの視点から、仕事や政治経済にまつわる疑問、解決方向等をゆるいペースで綴っていきたいと思います。

自社の給与アップは会社の成長を危うくするか

Q;給与アップが議論されるなか、自社が給与アップすると会社の成長が危ぶまれるのではと心配しているが、どう考えればよいか?

A;内部留保の蓄積、年金負担額の減少など会社の経営状況をよく見てみましょう。

 PL(損益計算書)の営業利益だけではなく税引き後純利益や、BS(貸借対照表)の利益準備金内部留保の動向を分析してみよう。

 よく「今年は黒字だが減益なので、このまま賃金を上げたりすれば、会社が破綻するぞ」という経営者がいますが、会社の利益の増加と賃金上昇とは必ずしも正の相関関係があるわけではないです。むしろこういう経営者は、世に言うコストカット経済に取り込まれた無能な経営者かもしれません。

 自社の客観的状況をまずは把握してみましょう。あなたの会社では、イノベーションに向けた積極投資を行わず、利益準備金としてため込んでいるだけかもしれません。

 PLの営業利益が悪化しているとしても、経常利益・税引き後純利益は増加しているかもしれません。

 近年では、内部留保という形で投資を控えるということだけでなく、社会保障の企業負担も減少しており、社員への分配増額への社会的要請が高まっています。(日経新聞2023年10月25日「企業の年金負担6兆円減 金利上昇で業績押上げ」)

 賃金を上げることは、有能な社員の確保とイノベーションによる企業成長という好循環を招くことが望ましい姿であり、これを実現する戦略を立案し、実行できるものがリーダーとなるべきです。

 賃金を上げることを、自社だけでなく、社会全体で取り組まれることは、「失われた30年」という衰退した日本経済全体に、マネーの循環を促し、地域経済全体を押し上げていくこととなると主張している政党もあります。(立憲民主党経済政策、日本共産党「経済再生プラン」など) 

 とは言え、一サラリーマンの我々では、なかなか経営者を動かすことは難しいですね。企業が賃金アップを踏み出す一番のタイミングは。最低賃金アップではないかと考えます。先進国並みの最低賃金の実現を政策として実施してもらうことが重要です。これがトリガーとなって、経営陣も給与上昇を考えざるをえないですし、また、仕入先への支払も上昇せざるをえないと考えることでしょう。

 この環境下においても、自社が発展していことは、長く存続できる強い会社を作ることとなり、大きく言えば日本経済=コストカット経済からの脱却につながるのだろうと思います。

 あなたの上司やリーダーが、もし頼りにならないリーダーであれば、目を政治にも向け、最低賃金アップを提唱する政党に一票を投じ、またできれば支援して、その政党に頑張ってもらいましょう。

(阿)

なんとなく…リスキリングでDX推進の指示、どう対応?

Q;リスキリングによるDXを推進せよという指示がありましたが、上司の指示は具体性がなく、どう取り組んだら良いでしょうか?

A;経営者や上司から具体的なDX推進分野が明示され、事業内容・人員配置・担当者のスキルセットと要員目標数・予算がはっきりしているのであれば、やりやすいですが、なんとなくDX推進せよとかAI技術者をとにかく増やせとか、ブームに踊らされた経営者の指示というのがやっかいですね。若い社員に、「これからの時代、若い世代の新しい目線で、自由にやって良いぞ」という若者信仰とイノベーション責任放棄の経営者も少なくありません。

 戦略性・具体性のない指示は、指示を出している上司もICT化との違いも判らず、ICT化によるコストカットのイメージしかないので、従来のICT化検討で良いのではないかと思います。

 ICT化にせよ、DXにせよ、これらを推進することが、社内にどういう「働かせ方」環境をもたらすのかもイメージしておく必要があります。DX推進は、一握りの過酷な労働を行う高度技術者と多くの単純労働を行う社員又は派遣社員の集合体へと二極化を招くという専門家の分析が多々あります。1)

 DX推進が、社員をモーレツ社畜社員と非正規ワーカーを主体とする単純労働者に分けるために行われるのであれば、これが本当に会社のサステナビリティを保証するものなのか、管理者であるあなたはよく考える必要があると思います。このような会社で社員は長期にわたって頑張りたいと思うでしょうか?

 DX推進は、コストカットのためではなく、シェア拡大または新規事業拡大のために行われるべきです。社員の新たな役割の創出とスキルアップ、やりがいの醸成を伴ったものにしていきたいですし、そしてこれを推進するのが優秀なリーダーの姿ではないかと考えます。

 経済再建政策の中で、よく賃金アップの文脈でリスキリングが語られることがありますが、これはこれで課題解決となるのか疑問ですが、これがさらに会社の中で語られる場合、リストラ(大量解雇)と非正規社員への置き換えという過去に経験した、短期的視野の経営を想起させます。この結果、「失われた30年」=コストカット経済へと進み、企業の競争力も低下してきました。

 近年では、「心理的安全性」の中でイノベーションが生まれるという論調が注目されてきています。イノベーションを生み出すという雰囲気の中で、部下の知恵を引き出し、DXを推進するというチーム作りができれば素晴らしいと思います。リストラ前提または想像できるようなDX推進は、社員に「心理的安全性」は乏しいでしょう。

 あなたの役割は、株主だけでなく、できれば全ての会社に関わるステークホルダーの意向を踏まえ、会社の競争力を向上させるイノベーションのテーマは何かをまず見つけることです。

1) 代表的な専門家の意見

   ①独立行政法人 経済産業研究所 岩本晃一氏 RIETI - 岩本 晃一のRIETIでの活動

   ②桜美林大学教授 藤田実氏 雑誌「経済」等各種論文

(阿)

マネージャーは警戒せよ。今さら聞けない三六協定

Q;部下が成果を出そうと、残業も厭わず頑張っています。同僚からはあれは三六協定違反ではないかとささやかれていますが、今さら聞くのも恥ずかしいですが、三六協定って何ですか? 違反だとしても、会社のために頑張っているのに、何か問題があるのでしょうか?

A;三六協定とは、時間外労働や休日労働について決めた協定のことです。この協定は一般的には労働者の代表である労働組合と締結します。

 労働基準法第36条に基づくことから一般的に三六(サブロク)協定と呼ばれていますが、正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」です。

 三六協定を締結しないまま残業や休日出勤をさせれば法律違反となりますし、会社は従業員がたとえ1人でも届け出なければ、法定労働時間外に働かせることはできません。

 あなたの会社で三六協定の届出処理を上司が行っているはずです。

 成果を求めるあまり、部下をサービス残業に追い込んだり、または部下の意思で自ら長時間労働しているのを見過ごすことは、上司である管理者としては法律違反を起こしていることになります。

 特に、テレワークの普及で、見えないところで部下が仕事をしているという労働環境が増えたことで、勤務実態が把握しづらくなっています。そのような状況ですら、労働基準法の責任からは免れないのです。

 2019年に改正労働基準法が施行されました。本法律などを総称して、「働き方改革関連法」と呼ばれています。多様な働き方を認めるとともに、ルールの厳格化も図られました。さらに違反が判明した労働者1人あたり6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。部下が残業も厭わず仕事をしたいという前向きの考えであったとしても、会社のため、あなた自身のために、順法の精神で適切な指導をしましょう。

 さて、あなたの周りには、派遣社員フリーランス・ギグワーカー等、非正規ワーカーが少なからずいると思います。中には偽装請負に近い形で、派遣先で指示をして働かせている企業があると聞いています。正規社員は三六協定に従うが、非正規ワーカーは関係ないだろうと思われるかもしれませんが、日本共産党の山添議員の国会質疑(2023年11月1日)でもはっきりしましたが、厚労省もギグワーカーであっても、派遣先の指示・命令で仕事をさせられている場合は、労働者と見なされ、労働基準法の適用となることが明確になっています。

 「失われた30年」=コストカット経済の元凶の一つが、非正規ワーカーの増大であり、先進国の中でも稀有な状態に日本は追い込まれ、これが経済を弱体化させてしまいました。非正規ワーカーをコストカットの手段として見るのではなく、雇用形態の一つとして尊重し、その上で仕事の成果、会社全体の業績向上を実現する、正しいリーダーになるべく頑張りましょう。

(阿)